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109. エピローグ
「まだ働くの?」
ヒナの前髪を横にずらしながら、アレクサンドロは溜息をついた。
チェロヴェ国からもらった慰謝料の半額をイワライに渡したが、あまりの高額にイワライが受取りを拒否。
お金の価値が全くわからないので、結局すべて宰相である養父にお願いすることにした。
「ナイトリー公爵にお願いして、クッキー屋を街に作ってもらえることになったんだよ」
もちろん出店にかかる初期費用はチェロヴェ国の慰謝料で支払いだ。
キッチンも販売のためのカウンターやその他必要な物も全て。
「月に1回、第1土曜日しか開かないけれど」
販売も含め、問い合わせや各種対応はイワライの父マートンがしてくれるそうだ。
「武官も文官も行っているし、俺との時間が減る」
ヒナを独り占めしたいのにと不貞腐れるアレクサンドロをヒナは笑った。
「あまり独占欲が強いと逃げられますよ?」
「そうなのか?」
ユリウスの言葉にアレクサンドロが焦る。
「逃げたくなったら俺に飛び込んでおいで」
「私のところでもいいですよ」
ランディとディーンが笑いながら言うと、ヒナは申し訳なさそうな顔で微笑んだ。
結局、吊り橋効果は継続中。
まだ正式に婚約はしていないが、婚約者候補は継続になった。
すぐに婚約しないのは、なぜか宰相である養父が「ヒナは嫁に行かせない」と言っているらしい。
コヴァック公爵とロウエル公爵も「アレク様にヒナはもったいない」と言っているとユリウスがこっそり教えてくれた。
「眼鏡のひーくんとはイチャイチャしても構わないだろう?」
「そうですね、ひーくんとヒナは別人ですからね」
ランディとディーンがアレクサンドロを揶揄うと、ダメに決まっているだろうとアレクサンドロは抗議する。
そして冒頭。
まだ働くの? につながるのだ。
四国が友好国になったおかげで、国境にあったゲートは撤廃となった。
今では通行記録も手続きもなしに自由に各国を移動できる。
ただ、いくら平和になったからといっても、他国の王子がふらふらと街で食べ歩きをしているのはどうかと思う。
まだユリウスと護衛はつくがアレクサンドロも以前より気軽に街へ行けるようになった。
南広場の芝生の上で寝転がるのはまだ出来ていないけれど。
人族は他国で悪事を働いてもチェロヴェに逃げ込めば罰を受ける事がなかったが、もう結界がないので悪人が減ったそうだ。
四国のどこも友好国になってくれないので、チェロヴェ国王は焦っているらしい。
別に四国が攻めていくことはないのだが、毎日不安だろう。
「あ、ひーくん、お店の色だけどさ」
イワライはまた茶髪に戻り、違和感がなくなった。
ユリウスの妹ヒナと、眼鏡のひーくんが同一人物だと知ったあとも、別人として接するようにコヴァック公爵に指示されたそうだ。
「わ! かわいい!」
クッキー屋の色はオレンジ。
チェックの看板に、狼のシルエットのマークだ。
「この狼、アレクだからね」
こっそりモデルを告げられたヒナは真っ赤になった。
確かに身体のバランスが狼のアレクサンドロのような気がする。
そんなことまで配慮してくれなくていいのに。
「おい、イワライ。ヒナに何を言った? 口説くなよ」
俺のだとヒナを抱えるアレクサンドロに、ユリウスはくっつきすぎですと注意した。
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