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ざわざわする部屋。
誰も迎えに来ない。
陽菜が立ち上がると騎士のような姿の男達が陽菜の周りに現れた。
何かを言っているが聞き取れない。
日本語ではないみたいだ。
さっきも京香さんと芽郁ちゃんの名前はわかったが王子の言葉はわからなかった。
彼女達はわかっていそうだったけれど。
騎士の1人が陽菜の腕を乱暴に掴む。
「離して!」
陽菜が振り払おうとすると、もう片方の腕も別の騎士に掴まれた。
1人の騎士がギラギラ光る銀色の剣を陽菜の前に突き付ける。
もう1人の騎士も反対側から剣を突き付けた。
本物?
待って!
これ歓迎されていないパターン!
後ろで1つに縛った黒髪。
前髪は長め、黒縁眼鏡をかけていて、TシャツにGパン、スニーカーで色気がないのは認める。
でもさ、勝手に知らないところへ連れてきてこの扱いはないんじゃない?
「ねぇ、ここはどこ? どういうことか説明して!」
陽菜が言っても騎士は何も答えない。
騎士同士で何かを話しているが、全くわからない。
引きずられるように暗い廊下を進み、大きな扉の前へ連れていかれる。
「わっ!」
何の説明もないまま陽菜は扉から突き飛ばされた。
咄嗟に手をついたが膝のダメージは防げなかった。
眼鏡がずり落ち石畳に落ちそうに。
陽菜は慌てて眼鏡を押さえた。
「なんなの?」
あまりにもひどい扱いではないだろうか?
外は雨。
Gパンも手も泥で汚れている。
当然、急いで押さえた眼鏡も、顔も。
振り返ったときには扉はもう閉められ、周りには誰もいなかった。
え?
これ、本当に何なの?
ありえなくない?
あっという間にずぶ濡れになる陽菜。
垂直の高い壁は、日本の武将の城というよりも海外の城に見えた。
東京にこんな城はない。
有名なテーマパークのような綺麗な城でもなく、暗く冷たい印象の城。
ここはどこ?
それよりもこの状況は何?
異世界に行ったらチート能力とか、イケメンとか、世界を救うとかが定番じゃないの?
これはどういうこと?
言葉すらわからないって何よ。
陽菜は石畳で打った足を押さえながら立ち上がった。
Gパンで良かった。
スカートだったら流血だ。
手もドロドロ。
Tシャツも泥がついてしまった。
何で私がこんな目に。
もう1度建物の方を振り返っても、閉まっている扉は開きそうにない。
周りを見回しても、建物すらない。
陽菜は泣きながら歩いた。
だんだん強くなる雨に体力が奪われる。
どれだけ歩いたかわからないし、どこへ行けばいいのかもわからない。
足も痛いし、濡れた身体が寒い。
なんとなく息苦しい気がする。
……もう無理。
陽菜の身体から力が抜ける。
陽菜は意識を失い、その場に倒れた。
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