106. 好き

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 部屋のど真ん中に寝転がるアレクサンドロ。  ヒナはブラッシングセットを棚から取ると、アレクサンドロの横に座った。  櫛で背中を梳くと綺麗な毛並みに線が付く。  黒と濃いグレーのメッシュだ。  首の後ろは少しふかふかなので、細かい櫛で丁寧に。  三角耳の後ろをぐりぐりマッサージすると、耳の先がピクっと動いた。  尻尾はふさふさで、足の先は少し白くて。  肉球もぷにぷにで可愛い。 「グァウ?」  普段触らない肉球を触られたアレクサンドロが振り返る。 「イヤだった?」  ごめんねと言ったヒナの顔は少し泣きそうに見えた。  狼のアレクサンドロは起き上がり、ヒナの口をペロリと舐める。 「あ! アレク、スナック菓子食べたでしょ」  ほのかに香るジャガイモっぽい匂いは、きっとあのお菓子。  朝から食べたの? とヒナは笑った。 「そろそろ戻る?」  一緒に向こうの部屋に行こうかとヒナが言うと、狼のアレクサンドロはグァウと返事をした。  少し先を歩き、振り返りながらヒナを確認するアレクサンドロ。  まるで森を2人で歩いたときみたいだ。  またヒナの顔が泣きそうになる。  アレクサンドロは立ち止まり、ヒナを見上げた。 「ん? どうしたの?」 「グォウ」  そんな顔をしているって気づいていないのか?  何があったんだ?  聞きたいけれど、狼の姿ではヒナには通じない。  アレクサンドロは執務室を通り過ぎ、奥の部屋で着替えた。  執務机の前を通り過ぎ、ユリウスの横を通り過ぎ、本棚を眺めているヒナの所へ一直線に進む。 「アレク様?」 「アレク?」  ヒナの手を捕まえ、再び奥の部屋へ向かうアレクサンドロに、ユリウスもヒナも驚いた。 「あれ? 仕事は? アレク?」  ユリウスの方を振り返りながら確認するヒナ。  アレクサンドロは自分のキングベッドにヒナを押し倒すと、ヒナの上からグレーの眼でじっと見つめた。
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