106. 好き

3/3
前へ
/316ページ
次へ
 ふかふかのベッドにヒナの身体が沈む。 「えっ? アレク? どうしたの?」  困惑するヒナ。  仕事に戻るのだと思ったのに、着替えてなぜこの状態になったのか。 「ヒナこそどうした」  なぜ泣きそうだと聞くアレクサンドロ。  眉間にシワを寄せ、俺には相談できないのかと言いそうだ。  ヒナは困った顔で微笑んだ。 「土曜日。チェロヴェから慰謝料をもらったら、街で一人暮らしかなーって」  ちょっと寂しいなって思っただけだとヒナが言うと、アレクサンドロは驚いた顔をした。 「街……で暮らすのか?」 「安全になったら、ここにお世話になる理由がないよね」  泣きそうな顔は、喜んで街へ出ていくという顔ではなく、行きたくないけれど出て行かないといけないと思わせるような顔だ。 「ここにいればいい」 「でも」 「ずっといればいい」  アレクサンドロのグレーの眼が揺れる。  ヒナは手を伸ばし、アレクサンドロの髪に触れた。  狼のアレクサンドロはよくブラッシングしているが、人の姿の髪を触る機会はない。  黒と濃いグレーのメッシュ。  黒い部分の方がグレーより少し硬い。  目は綺麗なグレー。  整った顔。  あぁ、イケメンだなぁ。  眼鏡をしていないヒナの黒い眼が揺れた。  見つめ合うと口づけが降りてくる。  唇が触れ、舐められ、角度を変えた口づけが続く。 「好きだよ、ヒナ」  口づけの間に囁かれる言葉。 「好きだ」  だからここを出ていかないでくれと言うアレクサンドロ。  ヒナはアレクサンドロの首に腕を回しながら、ありがとうと呟いた。
/316ページ

最初のコメントを投稿しよう!

421人が本棚に入れています
本棚に追加