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107. 国境
普段1日に10人も通らない国境に多くの人が集まり、辺りは異様な雰囲気だった。
チェロヴェ側の国境にはチェロヴェ国第1王子クロード。
そして大臣達、研究者と思われる数人のおじさん。
騎士が多数。
ヴォルク側の国境にはヴォルク国第1王子アレクサンドロとヒナ。
そして宰相、コヴァック公爵、ロウエル公爵、ランディを含むロウエル一族、ユリウスとイワライ。
様子を見に来たイーグル姿のプチィツァ国第4王子フィリップと緑の鳥の幼馴染。
レパード国第1王子レイナード、熊族ミドヴェ国第3王子ナット。
各国の大臣、護衛が集まり、種族混合だった。
結界がなかったら人族には脅威だろう。
「なんでイワライが」
アレクサンドロが驚いた顔をすると、イワライは気まずそうに笑った。
「後ろの列、向かって右から2番目、白髪で茶色のズボンがマートン・ニールです」
イワライが小声でヒナとロウエル公爵に伝えると、ますますアレクサンドロは不思議そうな顔をした。
「では慰謝料をお支払い頂きましょうか」
ニッコリ微笑みながらコヴァック公爵が告げると、チェロヴェ国は結界の内側にスーツケース2個を置いた。
「まずこちらが国家予算3ヶ月分の紙幣です」
チェロヴェの宰相が礼をする。
あれ?
この世界は電子決済なのにこういうときは紙幣なんだ。
ヒナが首を傾げる。
「そしてマートン・ニールです」
連れてこられたのは震えた青いズボンの男。
どうやらニセモノを引き渡すようだ。
ヒナはわざわざイーグルのフィリップを呼ぶ。
会話をしているフリをするとチェロヴェ国はざわついた。
「ねぇ、マートン・ニールを引き渡せって頼んだけれど、それは誰?」
ふざけているの? とヒナが尋ねると、チェロヴェ国第1王子クロードの顔が引き攣った。
「本物はあの男でしょう?」
イワライに教わった茶色のズボンの男を指差すとチェロヴェ国は渋々男を前に出す。
そして男の足に鎖をつけ、チェロヴェ国内に杭を打った。
「どうぞ、迎えに来てください」
チェロヴェの宰相がニヤッと笑う。
結界の中に獣人が入れば、子供の獣の姿になってしまう。
つまり結界内で作業ができるのはヒナだけ。
だが、ヒナ1人ではあの杭を抜くことは無理だろう。
「予想通りの展開か」
宰相が苦笑するとコヴァック公爵が頷いた。
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