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ふぅと深呼吸したヒナはマートンとイワライの前に立った。
「……本当に殴るんだ」
「マジか」
レパード国第1王子レイナードとミドヴェ国第3王子ナットは興味津々だ。
ヒナは左足を強く踏み込み、腰を回転させながら右手の拳を突き出した。
ロウエル公爵ほど強いパンチはできない。
でも最初よりは全然強いパンチを撃てるようになった。
「ぐっ、」
お腹を押さえてその場に崩れるイワライ。
「……な、んで、俺」
しかも思ったより力が強いし。
イワライはお腹を抱えてうずくまった。
「連帯責任」
拳を上げ、ニヤッと笑うヒナ。
アレクサンドロとユリウス、ランディは呆然とした。
イーグルのフィリップは上を飛び、レイナードとナットは大きな声で笑う。
「ランディ、そのケースお金入ってた?」
「あぁ。お金はちゃんと入っていたよ」
「1個ここに頂戴」
ケースは2個。
国家予算3ヶ月分を要求したので1ケースに1.5ヶ月分入っているはずだ。
ランディに持ってきてもらうと、ヒナはイワライに「はい、慰謝料」とケースを倒した。
「は?」
お腹を押さえたまま不思議そうに見るイワライ。
「爵位もらえなかったから」
今後の生活の不安と精神的苦痛の慰謝料だとヒナが言うと、周りは呆気に取られた。
「いやいやいや、君、何言ってるの? 助けてもらったんだよ、こっちは」
関係性のわからないほとんどの人達がどういうことか知りたがる。
何? どういう事? とヒソヒソ話す声が聞こえた。
「君のお金でしょ」
どちらかといえば助けてもらったこっちがお礼をしなくてはいけないくらいだ。
「私は大丈夫。お嬢様だもん」
「は?」
文官と武官でほぼ毎日働いているくせにお嬢様とはどういうことなのか。
イワライはお腹を押さえながら苦笑した。
「ね、お兄様」
ヒナが兄と呼ぶ視線の先はユリウスとアレクサンドロ。
「喧嘩が強い妹を持った覚えはありませんよ、ヒナ」
ユリウスが苦笑するとイワライは目を見開いた。
中央公園で会ったユリウスの妹はヒナという名前だった。
アレクサンドロとデートし、銀髪の武官と会い、プチィツァの店へ行っていた。
ユリウスの隣にはアレクサンドロ。
お金のケースを運んだのは銀髪の武官。
見上げればイーグル。
「ヒナ・イーストウッドです」
どうぞよろしくと、ヒナは眼鏡を外して前髪を手で上げた。
目を見開くイワライ。
ようやく同一人物だと知ったイワライはガックリと項垂れた。
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いよいよ最終話です。
最後までヒナの応援よろしくお願いします
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