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2. 3人の聖女
……夢じゃなかった。
眠った場所、木の下で目が覚めた陽菜は溜息をついた。
今日は曇り。
雨は降っていない。
木にもたれて寝たせいで背中もお尻も痛い。
服もドロドロ、ベタベタだ。
これからどうしたらいいのだろう。
「……おなかすいたな……」
つぶやいても返事をしてくれる人はいない。
陽菜はゆっくり立ち上がった。
森なら何か木の実があるかもしれない。
火をおこす方法はわからないけれど、果物っぽいものがあったらラッキーだ。
木々は大きく、葉が上の方に生い茂っている。
昼間のはずなのに森の中は薄暗い。
曇りだからだろうか?
木の根がゴツゴツ出ていて歩きにくい。
何度もよろけながら陽菜は歩いた。
……クゥ……。
「えっ?」
何かいそうな雰囲気に急に陽菜は怖くなった。
よく考えずに森に入ったが、動物が出てくる事を考えていなかった。
襲われたらどうしよう。
木登りはしたことがない。
「わっ」
濡れた木の根で滑り、木に手をつく。
「痛っ」
ザラザラの木の皮で擦りむいた手から薄らと血が出た。
はぁ。
地味に痛い。
溜息をつきながら陽菜は森の中を進んだ。
……犬かな?
動物を避けたはずが出会ってしまう引きの強さ!
凶悪な生き物でなくてよかった。
木の下にうずくまっている小さな動物の足は血で真っ赤に染まっている。
子犬は必死で息をしているように見えた。
陽菜がゆっくりと近づくと、もふもふは顔を上げ、威嚇する様に毛を逆立て唸り声を上げる。
噛まれたらイヤだけれど、血が出ていて可哀想だ。
Gパンのポケットに入っていたハンカチを三角に折り、さらに細く折る。
「痛っ」
動けないもふもふに手を伸ばすと、予想通り噛まれてしまった。
「ごめんね、驚かせて。ハンカチじゃ意味がないかもしれないけど血が止まるといいね」
足にハンカチをグルグル巻く。
もふもふはようやく噛んでいた陽菜の手から口を離した。
陽菜の手に牙の痕ができ、血が出始める。
陽菜は気にせずハンカチを子犬の足に縛った。
「はい、おしまい」
驚かせてごめんねと陽菜はもふもふに微笑む。
長い前髪と眼鏡で口元しか見えないと思うけれど。
もふもふはグレーの目で陽菜を見つめると、陽菜の膝の上で丸まった。
「えっ? わんちゃん、ここで寝ちゃうと困るんだけど」
動けなくなってしまった陽菜が焦る。
濡れたGパンの上では寝心地は良くないだろう。
「わっ」
子犬が濡れた毛をブルブルと振り、水滴が陽菜に飛んだ。
そのまま眠ってしまう子犬。
そっと背中を撫でるとふわふわに見えた毛は少し硬めでしっかりした毛だった。
癒される!
実家の柴犬よりも長い毛。
毛並みがすごく良い。
なんという犬種だろう?
ハスキーとはちょっと違う気がする。
雑種かな?
足が温かい。
お腹が空いてもう歩きたくないし、今日はここで休もう。
木にもたれながら陽菜は目を閉じた。
もふもふの背中に手を添えたまま眠る。
陽菜はこちらに来てから初めてゆっくり眠れた気がした。
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