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時空の旅人
ルージュは赤い封筒を取りだし、中から書類を抜き出した。
「こちらは旅行の日程表、時空間旅行保険のご案内、そしてご用意いただく物のリストでございます。
また数日後にお邪魔しますので、ご覧おきください。
さて、お疲れのところすみませんでした。
必要なことを説明するのは、決まり事なのでご容赦ください。
香苗様自身が旅行を楽しんでいただくことが大切です」
ニコリと笑うと、そそくさと玄関から出ていってしまった。
疲れているのは事実だが、内容が気になった。
2階からペタペタと足音がして、母が下りてきた。
「ルージュさんのお話は終わったのね。
私は先に聞いたから、上にいたの。
一緒に聞くと長びきそうだったから。
ご飯を温めるわね」
軽い夕飯を済ませ、体を洗って寝床へと向かった。
満月の夜にタイムマシンを使うのは、時空の裂け目と関係がある。
時空間旅行は、素粒子を操作して行われる。
現代科学を越えた技術で過去へと飛び立つのである。
ファンタジーのような、魔法のステッキとかがでてくるわけではないようだ。
寝る支度をしながら、ルージュの話が片時も頭を離れなかった。
「すると、未来を夢見た技術者は、興味を持つんじゃないかな」
不意に口を突いてでた呟きが、謎の核心を突いているように思えた。
父はタイムマシン自体に興味を持ったのではないだろうか。
考えてみれば、父が旅行した年代へタイムスリップすれば、父に会えるのではないか。
「なぜ、今まで考えなかったんだろう。
父に直接会えば、すべて解決じゃないかな」
急に、時空間旅行が楽しみになってきた。
翌朝、リビングでは母が食事を用意していた。
「おはよう。
ねえ、お母さん。
もしかして、パリ万博でお父さんに会えるんじゃないかって思ったんだけど」
母は手を止めて、香苗をじっと見た。
「あれ。
ルージュさんは、肝心なことを言ってなかったのね」
「もしかして」
「会えるわ。
日時を合わせてもらったの。
香苗を見たら、ビックリするでしょうね」
やはり、そうだったのだ。
ルージュが忘れていたとは思えない。
きっと優先順位が高い情報から伝えたのだろう。
そして、母から伝わることも織り込み済みだったに違いない。
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