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出会い
グルグルマップを頼りに辿りついた涼一の自宅は広く立派なものだった。
栗山家を見上げながら勇介は思う。
……俺の実家と同じくらいだな。それに涼一も一人っ子というから、この大きな邸宅に一人っきりでこもっているわけだ。
似てるかもしれない、昔の俺と。
勇介は自分の過去と照らし合わせて涼一の孤独を鑑みる。
そして、苦い思いを飲み込みながらインターホンを押した。
「二階の突き当りが坊ちゃまのお部屋です」
インターホンに応じた中年の家政婦は広い階段の上へと視線をやる。
「それでは私は時間ですので帰らせていただきます。夕食はキッチンに用意してありますので」
乾いた声で家政婦は続け、エプロンを外しとっとと帰ってしまった。
勇介はもう何度目か分からない溜息をついた。
せめて家政婦がもう少し温かみのある人だったなら涼一も救われていたかもしれないのに。
「しかたないか……」
ODやリスカで瀕死の状態の涼一を見つけ、救急車を呼ぶのはいつも彼女だったようだから、もういい加減にして欲しいというのが本音なんだろう。
二階へ上がり涼一の部屋をノックした。
「涼一くん、訪問看護師の谷川です。入ってもいいかな?」
声を掛けるも全く返事はない。
けれどドアの向こう側に確かに人がいる気配がする。
「……入るよ、涼一くん」
一瞬、鍵がかかっているのではと危惧したが、そういうことはなくドアはなんなく内側に開いた。
瞬間、強いお酒の匂いと血の匂いがした。
「何をしてるんだ!?」
勇介は部屋の中に飛び込むと隅に座る少年から剃刀を取り上げる。
涼一の左手には無数の剃刀の跡があった。中には深く一生消えないだろうものもあった。今日の傷はまだ浅い方だ。それでも血は幾筋も伝っている。
勇介は消毒液と包帯を鞄から出すと、手早く傷の手当てをした。
訪問看護師という職業柄、ケガなどの応急処置用の道具や、あと体温計や血圧計なども携帯している。
「ふう……」
手当てを終え、一息ついた時、涼一と目と目が合った。
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