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白いネクタイをした男はチョークを握ると、黒板に力強く名前を書いた。
「私の名前は、矢野信之介。B組担任です。専門教科は国語です。まあ、みんなの自己紹介は、式が終わった後っつーことで。とりあえず名前を呼ばれた者からブローチをつけて、廊下に並んでくれ」
矢野は白い花のブローチが入った箱を教卓に置き、名簿順に名前を読み上げた。
「岡林利明」
「はーい」
利明の名前が呼ばれた。彼は、前の席に座っている雅樹と沢目の後頭部を順に小突き、矢野の前に向かった。
「入学おめでとうっ」
矢野は目尻を思い切り垂らし、笑顔で言うと、腰を屈めて利明の右胸にブローチをつけた。矢野が姿勢を戻すとき、整髪料と防虫剤の混じった匂いがした。
「ありがとーございます」
利明は顎を突き出すように頭を下げると、ブローチを擦りながら廊下に出た。緊張した面持ちで並ぶ4人の後ろに続いた。A組の生徒やC組の生徒も同じように並んでいる。窓の外に顔を向けると、中年の男と制服を着た女の姿が見えた。
利明は窓を開けると、中年男に向かって手を振った。
「おーい、父さん。間に合ったんかー!早く体育館行かな、もうすぐ入場やで」
中年男は利明の父親の平介だった。平介は手を振り返すと、隣にいる女生徒に頭を下げ、体育館に向かって走りだした。あの女生徒は今、外にいるって事は2年生か3年生なのだろうか。利明は、どうでもいいやと思いながら窓を閉めかけた時、声が聞こえた。
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