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「そこの新入生っ!入学おめでとおー」
平介と話していた女生徒が、利明に手を振りながら叫んだ。廊下にいる全員が窓の外や、利明の方を見たりして驚き騒めいた。恥ずかしくなり顔を伏せて窓を閉めると、女は他の新入生にもおめでとうと叫んでいた。ありがとうという台詞が、廊下のあちこちから聞こえてきた。
なんや、うるさい女やな――。
利明が窓に背を向け壁に寄り掛かると、雅樹がブローチをつけて教室から出てきた。窓の外の女はまだ叫んでいる。周りの生徒の視線は、利明に向けられていた。
「なにしとるんや?」
雅樹はそう言って利明の後ろに並ぶと、声のする窓の外に顔を向けた。そしてそのまま目を見開くと、利明を指差した。
「おい、オカバ。なんか下におる女がお前のこと呼んでるで」
「はぁ?」
肩を叩かれ雅樹を見ると、彼は窓に向けて顎を突き出した。横目で外を見ると女は手を横に振り切り、窓を開けろと促した。
「なんやねん」
利明が顔をしかめて呆然としていると、彼に替わって雅樹が窓を開けた。
「こらー!おめでとうって言われたら、ありがとうやろっ!」
女は怒った口調で利明に向けて叫んだ。しかし怒っているのは声だけで、顔はあどけなく意地悪そうに笑っていた。
「入学お・め・で・と・う!」
女がもう1度利明に向けて言うと左手を腰に当て、右手は耳にかけて体を前に屈めた。利明が答えるのを、耳をすませて待っているようだ。
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