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今年は桜の開花が早く、入学式を待たずに半分以上の桜は地面に散り、茶色くなっている。
岡林利明の通う城南高校は、彼の誕生日の今日4月7日に入学式が行われる。そして彼の母親、弥生の命日でもあった。
「オカバッ。そろそろ行くで」
織田雅樹がインターホンのボタンも押さずに玄関のドアを開け、顔だけ入れる形で叫んだ。
「今行くし、待っとれや」
利明はそう言うと仏壇の前で手を振り、いってきますと呟く。
利明は真新しいブレザーと、しわのない深緑と紺色の格子縞のズボンを履き、傷の全く付いていない革靴に足を入れた。ドアを開けると、雅樹の姿が見えた。
「すまん、すまん」
こめかみを掻きながら謝ると、玄関に鍵をかけた。砂利の上に停められている自転車のスタンドを蹴り上げた。
「今日は車や。母さんが向こうで待ってるで」
「そうか」
利明は自転車のスタンドを立て直すと、砂利を蹴りながら門を出る。雅樹も少し大きめな真新しい制服を着ていた。
利明と雅樹は幼なじみで、幼稚園からずっと一緒だった。利明の家の3件隣に、雅樹の家がある。これからまた3年間、同じ高校に通う事になる腐れ縁だ。2人は早足で、雅樹の家の前に停められている水色の車に向かった。
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