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俺こと白川夏は高校3年の夏この世でいち番大事な人を失った。
それは現代の医学でも治す事の出来ない癌の転移によるものだった。
彼女は俺よりも歳は2コ下で、身体を誰よりも動かすことが好きな彼女は大好きな水泳部で毎日欠かさず泳いだりしていた。それが直接の原因かは定かではないが、転移が普通の人の何倍も思ってたよりも早かったそうだ。
年寄りのように余り普段活発に動かない非運動人間の俺の場合、血流量の違いで転移はスポーツマンよりは少ないらしく、だいたい転移前に早期発見されるため助かる可能性が運動系の人よりは断然大きいと言われている。
残念なことに癌と思われる症状が出だしたころには時既に遅く、内臓の至る所に転移してしまっていた。
皮肉なことにレントゲンやCT等の検査ではハッキリとそれらが確認されなかった。そのため手術が行われることになった。だが身体を切開した際に各箇所での細かな転移が発見されたため、開いた身体をまた閉じる作業だけとなった。
そうこれ以上手の施しようが無いと判断され、手術は即中断されたのだ……。
そしてその約2ヶ月後、彼女はこの世から別れを告げた。
皮肉にもそれは彼女が毎年楽しみにしている海開きの夏の日の午後だった。
快晴だというのに、なぜかその空の色は悲しく見えた。
雲一つないというのに……。
「夏、お母さん色々準備しないと行けないから冬美を宜しくね」
「うん、分かってるよ。ところで父さんは?」
「ああ、父さんはねっ。以前から契約してるデータバンクに問い合わせてるところ。分かってはいたけど本当に利用する日が来ることになるなんて……しかも予定よりも早く、早過ぎるわよ……」
「母さん、妹の前で泣かないでくれよ、俺も我慢してるんだ……ぅう」
「ご、ごめん夏……でも、そんなこと言われてもさ…………ダメねこんなんじゃ。また冬海に笑われてしまうわね。清算もあるから行くわね」
「ああ分かったよ。母さん……あのさ」
「なに、夏?」
「くれぐれも気を付けて」
「ええ、ありがと」
そう言うと、いつも元気が取り柄の俺の母は、なにかを落とした表情で静かに出ていった。
扉が閉まり誰もいないことを確認すると、俺は真っ白な部屋の壁を何度も何度も叩き始めた。
ああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
胸が締め付けられるってこういうことなんだ。物凄く心臓が苦しい。
頭の中で言葉では表すことのできない何かが激しく駆け巡る。
顎が砕けるほど強く歯を食いしばる。
視界は少しづつすこしづつ靄がかかりだし、白い部屋が揺らぎ始める。
声にならない嗚咽が漏れる。
自分が此処まで無力で駄目で馬鹿な人間なのか、あまりにも頼りにならない兄貴であることに対し、呪いに似たような感情さえわく。なんであいつが。
この場で何をしようが喚こうが妹が帰ってくるわけじゃない。
そう思うとやがて冷静さを取り戻した自分は、大好きな妹との最期の時間を過ごすことに専念することにした。
もうすぐこの肉体に会えなくなる。
俺は涙をシャツで拭うと、彼女の姿を忘れないように目に焼き付けることにした。
いや、それだけをするつもりだった。
普通なら故人を静かに送るのが、家族として兄としての務めなのだろう。
それなのに俺はよりによってあろうことか、彼女の呼吸器を外すと唇を重ねていた。
そこに看護師のお姉さんが居る事も気付かずに……
ガシャン!?
to be continue ……the younger sister plus
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