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辺り一面の黒。クレヨンや絵の具、鉛筆。そのどれを使ったとしても、今目の前にあるこの暗闇は表現できない。一筋の光でさえもこの暗闇の中には届くことはない。そんな絶望的で悲しい闇の世界。
この闇の中では、周囲を太陽のように明るく照らし、希望に満ちた彼女の光ですら輝くことはできない。リングは一面の黒に飲み込まれそうで必死にもがく。先程までいた自分の仲間達はどこに行ってしまったのだろう。ここには他の誰の気配も音も重力も何もない。自分が浮いているのか、立っているのかわからない。
以前もこんな世界に足を踏み入れたことがある。あれはそう、第一の目標地点である”平和の花畑”に行った日の晩だ。あの時もこの空虚な黒に溶けてしまいそうだった。
「あれ……? みんなどこ? レイン王女は……」
声に出してみても響くことはない。彼女の音は闇に吸い込まれる。
「ここ、前にも夢で見たような……」
ビキ……ビキ……
嫌に癇に障る不快な音が響く。音のする方を見ると、暗闇に三本の白い線が走っている。ガラスに皹が入る時のような、亀裂にも見えた。以前の夢で見た時にも、この皹はあった。今回は二つ、以前の皹の両脇に白い線が走行している。
その皹が何なのかリングにはわからない。だが、彼女の身体はそこに向かう。走っても、手で空気を割いても、この無重力空間では進んでいる気がしない。必死に手を足を何度も何度も動かす。皹は近づきも遠ざかりもしない。ずっとそこに存在している。次第にリングは闇から抜け出せない恐怖で心が埋め尽くされてくる。恐怖が焦りが彼女を覆い尽くす。
「何で、皹に辿り着かないのよ――――っ!」
リングは必死に叫ぶ。その声は闇に溶けてしまうというのに。
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