愛に溶かされるくらいなら

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 何を笑っているのかと考える間もなく、背後から剣が振り下ろされる。反射的に敵を血の刃で切り伏せてしまったときには、もう遅かった。 「見よ。アナテマの民は我が国の剣となり、裏切り者を打ち払う」  誰が、と叫びたい気分だった。けれど抗議の声を上げる間もなく状況は動いていく。 「クーデターなどと愚かなことを企てるならば、もう少しうまくやって欲しかったものだよ、公爵。……ああ、もう聞こえていないか」  血の池の中に浮かぶ生首を掴み上げ、ヴェルメリオは冷たく笑いかける。口振りからすると、ラースはヴェルメリオの政敵を炙り出すために利用されたのだろう。悲鳴が上がり、雄叫びが響く。やけになったかのように襲い掛かってくる兵士たちは、一様にラースを狙ってきた。 「異民族!」 「貴様らのせいで!」 「野蛮な民」  浴びせかけられる言葉に眉を顰めながら相手をする。これではまるでラースがヴェルメリオのために働いているかのようだと思った。ヴェルメリオに刃を向ける間もない。  戦いは楽しかった。久しぶりに存分に体動かせることに興奮していたせいもあるかもしれない。ラースが戦いに夢中になっている間に、いつの間にかあたりは静まり返っていた。  やがて、ラースが最後のひとりを切り捨てる瞬間を待っていたかのように、ヴェルメリオが手を掲げる。四方から伸びてきた光の鎖に体を捉えられ、ラースは膝をついた。肩で息をするラースをじっくりと眺めた後で、血に染まった広間を満足そうに見て、ヴェルメリオは喉を鳴らして笑った。  広間の端に隠れ固まっていた貴族たちをまっすぐに見据えて、聞いているこちらの背が凍りつきそうな声で王は告げる。 「アナテマの民は誰より強く、誇り高い。理解したなら、二度と不快な囀りを耳に入れさせるな」  ラースを捕らえ、その尊厳を地に落としているのはヴェルメリオ本人だ。どの口が、と言いたくなる反面、誰にも反論を許さぬ強い言葉を、どこかで嬉しいと思ってしまったことを、認めたくはなかった。
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