3・鈴木 藤嘉のノート

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俺はベッドに仰向けに倒れた。 嗅ぎ慣れた自室の匂いに、ノートから立った微かな香りが消されていく。 ノートを目の前に掲げる。 少し迷ってから、表紙に手を掛けた。 勝手に見ることを心の中で謝ってから、表紙を捲る。 シャープペン、赤ペン、蛍光マーカーの3色だけ使われたシンプルで見やすいノート。 恐ろしく綺麗な文字で、授業内容が書かれている。 文字が下手なことがコンプレックスである俺は、目を見張る。 こんな綺麗な文字が書ける人間が世の中には存在するのか。 「字、上手すぎだろ」 思わず独り言を呟き、その文字を指でなぞった。 鈴木 藤嘉は俺のノートを見たのだろうか。 あの下手くそな文字を見られたかと思うと、恥ずかしい。 明日、本当に図書室に来るだろうか。 まぁ、来るか。ノート無かったら困るもんな。 そんなことを思いながらノートを捲る。 ノートに並ぶ綺麗な文字は、いつも背筋がスッと伸びている鈴木 藤嘉の印象によく似合っている気かした。 授業、真面目に受けてるんだな。 そう言えば、頭が良いって聞いたことある。 来年受験とか、するのかな。 転校ってどこから来たんだろ。 近くで見たら髪の毛結構長かったけど邪魔じゃないのかな。 いつも背中スッとして、疲れないのか。 まぁでも、あの後ろ姿が、背中が、いいんだよな、なんか知らんけど。 …………………………。 「椋ちゃーん!先お風呂入る?ってママが聞いてるよー」 階下からの妹の声に、俺はノートを閉じた。 「んー、今行く!」 そう返事をしてベッドから勢いを付けて起き上がる。 床に投げ出した鞄を手繰り寄せ、鈴木 藤嘉のノートをよれたりしないように静かにしまってから、自室を出た。
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