4・声を掛けるか、無視するか

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鈴木 藤嘉のノートを持って学校に来た。 やっぱり2組まで届けに行った方がいいのかな。いや、図書室に来るって言ってたしな。でもー… 朝からずっとグルグルとそんなことを考えている。 「椋杜」 昼休み。声を掛けてきたのは奏だ。 「ん?」 「数学の宿題見ーせーて」 「は?やってないの?」 「昨日寝ちゃったんだもん」 「もん、じゃねーわ。たまには自力でやれ」 「椋杜!お願い!」 奏は顔の前で両手を合わせ、俺を拝み始める。 俺は机から数学のノートを出してやった。 「俺がトイレ行ってる間だけだからな」 「ありがと!」 奏にノートを手渡し、席を立った。 廊下へ出れば、食後の同級生たちで賑わっている。 人の隙間を縫う様にして、歩く。 我が1組の教室はトイレから一番遠い場所にある。 ポケットに手を入れて、奏の為になるべくゆっくり歩いてトイレを目指す。 「藤くん!」 不意に、そんな声が耳に届いた。 チラリと視線を上げれば、鈴木 藤嘉の姿。 藤くん、と呼んだであろう女子が駆け寄っていくのが前方に見えた。 鈴木 藤嘉と女子は会話を交わして、並んでこちらへ向かってくる。 ゆっくり歩きながら、ふと思った。 ……あれ、これって、挨拶とかした方が良いやつか? 昨日までは話したことが無かったから、勿論擦れ違う時だってノーリアクションだった。 けれど、昨日、鈴木 藤嘉と俺は会話を交わしてしまった。 なんか、言った方がいい?『昨日は悪かったな』とか?『今日はノート持ってきたよ』とか?無視も感じ悪いか? そう思っている間にも、前から歩いてくる鈴木 藤嘉との距離は縮まっていく。 もう少しで、擦れ違う。 廊下の雑踏に混じって、鈴木 藤嘉と女子の会話が微かに聞こえてくる。
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