5・本当に、来た

2/9

28人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
放課後。 いつも通り、図書室に向かう。 鍵を開けて、貸し出しカウンターに座る。 いつも通り、1人の図書室。 貸し出しカウンターに些か乱暴に鞄を置いたら、バランスが悪く鞄が倒れてしまった。 しかも、チャックが開いていて中身が床へとバラバラと落ちてしまった。 「ぅわ、最悪」 悪態をついて、散らばった筆箱や教科書を集めていく。 最後に拾おうと手を伸ばしたのは、鈴木 藤嘉のノートだった。 拾って、立ち上がる。 今はもう放課後で、ここは図書室。 だが、鈴木 藤嘉は来ていない。 本当にここへ来るんだろうか。 結局廊下で擦れ違った時も言葉を交わすどころか、視線すら合わなかったし。 いや、あれは俺が合わせなかったのか? でも、向かうからも声が掛からなかったのも事実だ。 もし今日鈴木 藤嘉が図書室に来なかったらー… 「…これ、どうすればいいんだよ」 呟いた瞬間、扉が開いた。 ノートを手に立ち尽くしたまま、首を捻ってそちらを見た。 そこには、鈴木 藤嘉の姿。 「お邪魔します」 そう言って、図書室の敷居を跨ぐ。 本当に、来た。 昨日同様、後ろ手に扉を閉めてから鈴木 藤嘉はこちらへ歩み寄る。 「あ。ちゃんとノート持ってきてくれたんだ?」 俺が手にしたノートに視線をやって、鈴木 藤嘉がそう言う。 「え?あぁ、うん。勿論」 鈴木 藤嘉のノートを手にしたまま立ち尽くしていることにハッとして、貸し出しカウンターの椅子に座った。 鈴木 藤嘉と貸し出しカウンターを挟んで向かい合う。 カウンターに鞄をのせる。 ふわりと、昨日と同じ果実の様な香りが立った。 鈴木 藤嘉は鞄の中から俺のノートを取り出す。 鞄のチャックを閉めてから、俺へと差し出した。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加