5・本当に、来た

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「はい、鈴木のノート」 「ありがと。じゃあ、これ、鈴木のノートな」 自分のノートを受け取り、鈴木 藤嘉のノートを差し出した。 俺の手からノートを受け取りながら、鈴木 藤嘉が笑い出す。 「ふっ、ははっ!鈴木、鈴木うるせぇってな」 そう言いながら、奥二重の瞳を細め目尻を下げて笑う。 子どもみたいな軽やかな笑いに、俺つられて笑ってしまった。 「仕方ないだろ。同じ苗字なんだから」 「お互いに自分の名前呼んでるの微妙じゃね?」 ふふっ、と笑いながら、鈴木 藤嘉は左手を伸ばした。 骨っぽい長い人差し指が、俺の持つノートの表紙を指差す。 「名前、何て読むの?」 ノートの表紙に書かれた俺の下手くそな名前が鈴木 藤嘉の長い指先にとんとん、と軽く叩かれる。 下手くそな字を指差されて恥ずかしいと思ったけれど、それよりも綺麗な指先だと思った。 綺麗な文字を書く人間は指先も綺麗なのか。 そんな思いを振り払う様に軽く頭を振って、俺は答える。 「『くらと』」 「『くらと』?」 「そう。鈴木 椋杜」 俺はそう言って、鈴木 藤嘉に視線をやる。 「鈴木 椋杜」 鈴木 藤嘉は改めて俺の名前を呼んだ。 何だか気恥ずかしい。 鈴木 藤嘉はノートを指差したまま、俺の名前の部分をなぞりながら言った。 「『椋』って(むく)の木と同じ漢字だよな?」 「あぁ、そうそう。よく知ってるな」 「国語は得意なんだ」 そう言って、鈴木 藤嘉はえくぼを浮かべて笑う。 「椋杜ね、了解」 そして、独り言の様にそう呟いてから続ける。
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