5・本当に、来た

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「椋」 いきなり呼ばれた自分の名前に、ドキリとした。 呼ばれるとは思っていなかったから。 鈴木 藤嘉を見れば、真面目な顔でこちらに視線を向けていた。 「昼休み、廊下でごめん。無視したみたいになっちゃって」 俺に気付いてたんだ。てか、先に視線下げたのは俺なんだけど。 俺は言う。 「あぁ、いや、別に気にしてないし」 「椋に声掛けて、女子に詮索されるの嫌だったから。感じ悪かったよな?」 まさか謝られるとは思わなかった。 それに、声を掛けなかったことに理由もあったとは。 たいした理由もなく先に視線を下げた自分が恥ずかしい。 俺は言った。 「それなら俺も。無視して悪かったな。…にしても、モテる男も大変だな」 そう言えば鈴木 藤嘉の真面目な表情が幾分和らいだ。 「モテるってか、単に転校生が珍しいだけだろ」 「いや、モテてたじゃん。一緒に帰ろって誘われてたよな?」 「は?聞いてたのかよ」 「擦れ違う時、聞こえたんだよ。女子と一緒に帰っちゃって、鈴木は今日ここに来ないかと思ったぞ」 奏と話しているノリで、揶揄い半分に俺はそう言った。 すると鈴木 藤嘉はこう返してきた。 「何だよ、聞いてなかったのか?」 「ぇ?」 真面目なトーンで、続ける。 「『今日は放課後は大事な用事あるから』って、俺断ってたじゃん?椋と約束してたんだから、こっちに来るに決まってんだろ」 事も無げに、そう言った。 完全な口約束だった訳だから、こんなに律儀に守られるとは正直思っていなかった。 けれど、女子からの誘いを蹴ってまでこちらに来ることを選んでくれたことに、悪い気はしなかった。
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