5・本当に、来た

5/9

28人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
「てか、椋。自分の苗字呼ぶの嫌じゃない?俺のことも名前で呼べば?」 鈴木 藤嘉がそう言った。 まぁ、確かに。俺は言った。 「そうだな。『藤くん』って呼ばれてるんだっけ?」 「それは止めて。何か、女子が勝手に呼んでるだけだから」 鈴木 藤嘉は少し困った様にそう答える。 「んじゃあ、藤嘉?」 「あぁ、うん。その方が良くない?お互い鈴木同士なわけだし」 「まぁ、確かにそうだな」 そう言えば、藤嘉は満足そうに笑う。 高2にもなって互いの呼び方を決めるとか、何だかむず痒い気分だった。 藤嘉はノートを鞄にしまいながら、俺に問う。 「図書室って、文芸部じゃなくても使用は自由なの?」 「勿論。まぁ、基本は俺と顧問の高瀬以外は誰も来ないけどな」 そう答えると、藤嘉は「ふぅん」と呟いた。 そして不意に、貸し出しカウンターの1番近くの机から椅子だけを持って来た。 貸し出しカウンターの内側にいる俺とカウンターを挟んで向かい合う様にして、外側に椅子を置くと何の迷いもなくそこへ腰を下ろした。 椅子に座った藤嘉と、貸し出しカウンターを挟んで同じ目線になる。 藤嘉は貸し出しカウンターに頬杖をついてこちらを見ながら口を開く。 「いいね、ここ。静かで、落ち着く」 距離が近いな、と思いながら俺は言った。 「だろ?穴場だよ」 「文芸部って毎日何してんの?」 「文芸部の活動なんかしてないよ」「え?」 「文芸部なんて名ばかり。図書室の番兵しながら、勉強したりスマホいじったり自由にしてる」 「へぇ、」と呟いてから、藤嘉は続ける。 「文芸部じゃなくても使用可ってことなら、俺も図書室使ってもいいわけ?」 今まで図書室に来た生徒などいたことがなかったから、俺は少し考えてから答える。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加