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「行ってきまーす」
玄関先でお決まりの挨拶を口にしたら、リビングのドアが開いた。
中からは末の弟がグズりだした泣き声と、母の大声。
「椋!帰りに牛乳買って来て!」
「牛乳?何本?」
「2本」
「は?2本!?」
2本はちょっと重いんですけど…なんて心に過った文句は、本格的に泣き出した弟の泣き声を前にしたら口から出て来なかった。
「分かった。行ってきます!」
泣き声に負けない様に声を張って返事をして、そのまま家を出た。
着慣れた制服に身を包んで通い慣れた学校へと、自転車で向かう。
自転車を漕ぎ出せば、散り始めた桜の花びらが頬に当たった。
この間進級したばかりだと言うのに、春も終わりか。
北海道の春は短い。
学校が近付くほどに、歩道には同じ制服を着た生徒が増えていく。
人波を避けきれずに自転車を降りて押しながら、そこに俺も紛れて、溶け込んでいく。
「椋杜!おはよ」
不意に背後から声が掛かる。
振り返ると、そこには同じクラスの青山 奏の姿。
奏に笑顔で挨拶を返す。
「あ。おはよ。あれ?奏、歩き?」
「昨日の部活帰りチャリ、パンクした」
「マジかよ」
「本当だよ。歩きだから今日無駄に早起きした」
「ははっ、悲惨」
肩を並べ、そんな他愛も無い話と一緒に歩き出す。
朝起きて、学校へ行く。
奏とかクラスメイトとつるんで、他愛も無い話をして。
勉強はしっかりして。
放課後は部活で図書室。
母に頼まれたおつかいをこなして、帰宅して。
また勉強して、眠る。
その繰り返しの中にいる。
鈴木 椋杜。
高校二年生。
今日も今日とて始まったのは、いつもの毎日。
変わらない、変えられない、いつもの毎日だ。
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