6・1組の鈴木なら知ってます

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藤嘉が出て行って、図書室に一人きりになった。 静まり返る。 北海道に台風はあまり来ないけれど、台風一過とはこんな感じなのだろうか。 なんか、目まぐるしかった… 貸し出しカウンターに置いてある、自分の現代文のノートが目に入る。 藤嘉に返してもらった、ノートだ。 ちゃんと藤嘉から手渡しで返してもらった。 ー…で? お互い鈴木だから、名前を呼んで。 明日も図書室に来ようかなって言ってて。 あぁ、あと、小説を借りて。 俺も藤嘉も左利きで。 俺の答えが間違っててー… 藤嘉といたのは、そんなに長い時間じゃなかった。 短い時間だったのに、何か、濃い時間だったな。 あと、思ってたのと、違った、な。 傍から見ていた『鈴木 藤嘉』はいつも女子から声掛けられてるし、もっと軽い感じかと思っていたけれど。 ちょっと違った。 女子に詮索されるの嫌だ、とか言ってたから、案外硬派なのだろうか。 女子からチヤホヤされるのも、モテるのも、大変なのかも。 でもまぁ、アイツがモテるのも、分かる気がする。 初めて近くで見た、長めの髪の奥に隠れた藤嘉の顔は確かに整っていたし。 一見クールだけれど、えくぼを浮かべて笑うと途端に幼くなる。 あのギャップを女子は見逃さないんだろう。 あとは何だ、やっぱ、あの伸びた背中かー… ガラッと、図書室の扉が開いた。 藤嘉? 俺が入り口を見遣ったのと同時に、声が掛かった 「お疲れ、椋杜」 そこにいたのは、我が文芸部の顧問・高瀬 皐月だった。 俺は言う。 「何だ、皐月くんか」 「何だとは何だよ」 藤嘉が戻ってきたのかと思った。 そんな思いを飲み込んだ俺に、皐月くんは言う。 「てか、高瀬先生って呼びなさい。鈴木」 兄の友人である皐月くんとは昔から顔馴染みで、気を抜くと名前で呼ぶ癖が抜けきらない。
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