6・1組の鈴木なら知ってます

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「何の用ですか、高瀬先生」 言い直した俺に、皐月くんは笑う。 「書庫の整理の進捗状況を見に来た」 やべぇ、何一つやってない。 「あのー…「あ」」 歩み寄ってきた皐月くんは、貸し出しカウンターに乗っている俺のノートを見つけて言った。 「鈴木、来たの?」 「あぁ、うん」 「ノート返して貰えたんだな、良かった良かった」 「てか、返し間違えたの皐月くんなのに自分は動かないとか、職務怠慢だよな」 「ははっ、教員は忙しいんだよ」 皐月くんはケラケラと笑う。 こんな調子で藤嘉はあしらわれて、図書室に直接行けって頼まれたんだろうな。 「でも、いいじゃん。鈴木と知り合いだったんだろ?」 笑いながら、皐月くんはそんなことを言い出した。 「ぇ?」 「俺だって鬼じゃないからな。全く知らない奴同士なら俺が仲立ちになってやらんと悪いと思ったけど、『1組の鈴木なら知ってます』って鈴木が言うからさ。任せちゃった」 『1組の鈴木なら知ってます』? 俺は、言った。 「皐月くん、それ誰が言ったの?」 「は?」 皐月くんは訝しげに眉をしかめてから、答えた。 「だから、鈴木だよ。2組の鈴木 藤嘉」 藤嘉が俺を知っていたってこと? 「それっー…『高瀬先生、高瀬先生、お電話が入っています』」 校内放送が俺の語尾を遮り、皐月くんは「来たばっかりなのに」と思いっ切り項垂れた。 「仕方ない。戸締まり頼むな」 と言って、皐月くんはノロノロと歩き出す。 「あ。書庫の整理もよろしく頼むな」 扉の前で振り返ってそう言ってから、図書室を出て行った。 また、図書室に一人きりになる。 俺の内心とは裏腹に、図書室内は静まり返る。 台風一過とは、まさにこんな感じだろうか。 一人きりの図書室に、大きな疑問だけが残った。
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