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「あれ?椋ちゃん、おかえり」
「ただいま」
帰宅したら妹がリビングでゲームをしていた。
俺を見て、言う。
「帰ってくるの早いね」
「うん、まぁな。母さんは?」
「買い物行ってる」
「そうか」
「椋ちゃん」
「ん?」
「高校生ってこんなに帰り早いの?せっかくの放課後だよ?デートとかしないの?」
「…ノーコメント」
妹にそう答え、手洗いうがいをしてから2階の自室へ引っ込んだ。
なんだか勉強するのに気が乗らず、かと言って書庫の整理なんかも全然やりたくなくて、図書室から早々に帰って来てしまった。
いつも通り、部屋着に着替えて、鞄から参考書を出して、机の前に座って。
そこまで一気に動いて、溜め息。
『1組の鈴木なら知ってます』とは?
図書室を出てから今に至るまで色々考えてはみたけれど、昨日より前の藤嘉との接点が思い当たらない。
俺が藤嘉のことを知っていたのは、藤嘉が転校生で目立っていたからだけれど
俺は全く平凡で目立ったりしない生徒な訳で、藤嘉に知られている理由がない。
クラスも違うし昨日まで話したこともなかったはずだ。
いや、絶対話したこともなかった。記憶にない。
じゃあ、何で『知ってる』なんて?
皐月くんの聞き間違い?
明日、藤嘉本人に聞いてみようかな?
『何で俺のこと知ってたの?』って?
…いや、いきなりそんなこと聞かれたら流石に気持ち悪くないか?
変なことを言って、変に警戒されたら困るのは俺だ。
普通に、普通の距離感でいなくては。
それは止めよう。
頭の中でそう結論づけて、俺は参考書を開いた。
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