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「あ。」
「あ?」
並んで歩いていた奏が急に小さな声を上げたから、俺もつられて小さく声を上げた。
首を捻って隣を見れば、奏の視線は俺じゃ無くて前方へ向けられている。
視線を追って、俺も前を見る。
同時に奏は言った。
「あれ、転校生じゃね?」
見遣った先には、1人の後ろ姿。
すらりと伸びる手足が、俺達のそれとは少し色の違う、藍色の学ランに包まれている。
学ランの襟に掛かりそうな少し長めの黒髪は毛先が軽く外側に跳ねていて、歩く度にそれがぴょこぴょこと揺れる。
かっちりとした幅の肩に掛かった鞄の紐がずり下がり、ゆっくりとした動きでそれを肩に掛け直す。
気怠そうな歩き方に反して、その背筋は今日も真っ直ぐ空へと伸びていた。
あの後ろ姿は、この春、隣のクラスに来た転校生だ。
その姿を認めて、俺は口を開く。
「本とー…「藤くーん!」」
俺の呟きは、背後からの甲高い声にかき消されてしまった。
目の前を歩いていた背中は、俺達より後ろから名前を呼ばれて立ち止まる。
長めの髪の毛を揺らしてゆっくりと振り返る。
俺達より後ろを見遣って、薄い唇が動いた。
「おはよう」
俺達の後ろから2人の女子が駆け寄って行き、転校生と合流した。
何かしら会話を交わしながら、3人でき出す。
その様子を黙って見ていた奏が言った。
「今日も朝からモテモテだな、転校生」
「だな」
「まぁ、あの転校生イケメンだもんな」
「だな。つか、奏。いつまでも転校生って呼ぶの失礼じゃね?」
俺の言葉に奏は唇を尖らせた。
「だって友達じゃないもん、『藤くん』なんて馴れ馴れしく呼べないだろ」
「ははっ。まぁ、俺もだな」
「『藤くん』の本名なんだっけ?」
「鈴木。鈴木 藤嘉だろ」
「あぁ、お前と同じ苗字だったっけ?」
「うん」
「同じ鈴木なのに、椋杜は全然モテねぇな」
「うるせーわ」
俺達は互いに笑って、転校生の後を続くように学校へと向かった。
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