8・おはようとか、いいの?

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俺の問いに藤嘉は、んー…と、軽く唸ってから答えた。 「歩いて20分くらいかな」 「それ、チャリ通の方が楽じゃない?俺のうちから学校までだって歩いたら20分くらいかかるよ」 「あ、そうなの?」 「真面目に徒歩通してる奴の方が少ないって」 「確かにこの学校ってチャリ通多いかもな」 呑気な返答に思わず笑みが溢れた。 こいつ転校生だもんなって、改めて思いながら俺は言う。 「そうだよ。絶対チャリの方が楽だって」 「ははっ。そっか。じゃあ、今度俺も乗せてよ」 思わず言葉に詰まった。 俺も乗せてよー…って、俺もって?二人乗りってこと? 俺と二人乗りしていいって、思ってんの? いやいや、ただ楽したいだけ? そんなことを考えながらも、変な沈黙になることは避けたかった俺はすぐに言った。 「いや、二人乗りは違反だろ」 「ははっ。大丈夫、バレないって」 藤嘉もすぐにそう言った。 軽やかな口調は初夏の空気と相まって、爽やかだ。 俺は言う。 「藤嘉って、案外そういうタイプか」 チラリと首を捻り、横並びの藤嘉を見た。 藤嘉もチラリと首を捻って、俺を見ている。 長めの前髪の向こう側にある、奥二重の瞳が綻んでいる。 「椋は案外真面目なんだね」 口元にほのかな笑みを浮かべ、藤嘉はそう言った。 薄らと浮かぶえくぼは、やっぱり藤嘉を幼く見せる。 藤嘉の低い声で呼ばれた自分の名前が、耳に心地良い。なんてな。 「あ。椋は今日部活?」 「今日に限らず基本毎日部活だよ」 そんな会話をしながら互いに生徒玄関に足を踏み入れた時。 「じゃあ、俺も行くね。図書室」 藤嘉はそう言った。 昨日の今日で、きっと来るだろうとは思っていた俺は答える。 「分かった、待ってる」
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