9・噂

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「あれ?椋杜、今日早くない?」 俺より大分後に登校してきた奏は、俺と目が合うなりそう言った。 おい、まずは挨拶だろうが。 「おはよう、奏」 「おはよ。え?椋杜、今日学校来んの早くない?」 挨拶を適当に流して、奏はもう一度そう聞いてきた。 俺は答える。 「弟に叩き起こされて早起きした」 「ははっ!ウケんな」 「ウケねぇわ」 奏は軽やかに笑い、俺の前の席へ腰を下ろす。 「いや!そんな話はどーでもいいんだ」 「は?」 俺の早起きの話をどーでもいい、と言い切った奏は続ける。 「聞いてくれよ、椋杜」 「聞いてるよ」 「最悪だよ、マジ」 「だから早く言えよ」 奏は俯き、項垂れながら小さな声で言った。 「うちのマネージャー、いるじゃん?」 うちの、つまりバレー部のマネージャー? 記憶を辿る。何回か見たことある、小柄な女子らしい女子って感じの先輩だ。 入部したての頃から、マネージャーがとにかく可愛い可愛いと奏が騒いでいたっけ。 「マネージャーって、3年の?」 「そう」 「奏が可愛いって言ってた人?」 「そう。現在進行形でめっちゃ可愛い人。めっちゃくちゃタイプ」 「うん、で?そのマネージャーが?」 「転校生のことが好きなんだって」 …………。 「ふっ……ふじ、くん?」 藤嘉、と呼ぼうとして、躊躇って、慌ててそう誤魔化した。 俺が呼んだこともない転校生の呼び名を口にしたことに奏は一瞬眉をしかめてから、力なく頷いた。 俺は言う。 「マジかよ」 「マジ」 「噂だろ?」 「近々告白するって言ってた」 「誰が?」 「マネージャーが」 「マジかよ」 頷き、溜め息をつく奏に俺は訊ねる。
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