10・聞こえた言葉

2/7

29人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
放課後、図書室の鍵を開けた。 1人で中に入り、貸し出しカウンターのいつもの席に座る。 同時に、溜め息をつく。 頭に響くのは、奏の声だ。 『あの転校生、何か、前の学校に彼女いるらしい』 この言葉が、何でこんなに引っ掛かるのだろう。 別に藤嘉に彼女がいたって不思議じゃない。 女子からモテているのは周知の事実だし 男である俺や奏から見たって、藤嘉はイケメンだと思う。 顔も良くて、声も良くて、多分頭も性格も良くて。 転校生と言う話題性抜きで良い男だ。 そんな男に彼女の1人や2人、いない方がおかしな話なのだろう。 知り合ったばかりの俺には、藤嘉について知らないことの方が多い。 だから、ちょっと驚いただけ。 藤嘉だって知り合ったばかりの俺に敢えて言わないだろう、『俺、前の学校に彼女いるんだ』なんて。 高2にもなれば彼女くらいいるって。 それが普通。 そう思うのに、考えることを止められないまま1日を過ごしてしまった。 上の空で授業を受け、放課後になり、図書室へ来た。 朝玄関で別れてからここに来るまでの今日1日、藤嘉の姿は見掛けなかった。 隣のクラスだからって1日の中で必ずしも顔を合わせる訳ではないんだな、と思う。 今まで考えたこともなかったけれど。 …勉強、しよう。 鞄から参考書やノートを出して、カウンターに広げた。 参考書に目を落とせば、昨日の問題から進んでいない。 やる気が削げる。 参考書とノートを閉じて、俺は立ち上がった。 藤嘉もまだ来ないし、飲み物でも買ってこよう。 図書室は飲食禁止だけれど、皐月くんに飲み物は大目に見てもらっている。 まぁ、元々俺と皐月くんくらいしか来ないのだから誰にも咎められはしないのだけれど。 藤嘉が来た時の為に鍵は開けたままにして、俺は図書室を出た。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加