10・聞こえた言葉

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「…ぇ、と」 藤嘉は真剣な瞳を向けてくる。 盗み聞きしてしまったこと、怒ってる? どうしようかと考えて、俺は素直に口を開いた。 「ごめん。盗み聞きするつもりはなかったんだけど」 それを聞いた藤嘉はふっと微笑む。 「やっぱり?」 「いや、相手が誰かとかは藤嘉の背中に被って全然見えなかったし!でも、まぁ、聞こえたのは、聞こえちゃったんだけど…」 聞いてはいけないと思いながら聞いてしてしまった罪悪感があるからか、語尾は小さくなっていく。 藤嘉はさっき置いたイチゴミルクのパックに手を伸ばしながら言う。 「いや、椋は悪くないでしょ。あんな所であんなこと言ってたら、聞くつもらなくても聞こえちゃうよな」 藤嘉の微笑んだ柔らかな表情と、盗み聞きしてしまったことを咎められなかったことに少しだけ安堵する。 藤嘉がまたストローを口にする。 こくん、と一口飲んでから、藤嘉は言った。 「で、全部、聞いたの?」 藤嘉は視線を下げたままだった。 伏せられた藤嘉の長い睫毛を見ながら、俺はその問い掛けの意味を考える。 全部?全部って、部分的に聞いちゃマズい所とかあったってこと? あったのだとしたら、きっと、一番最後の部分だろうか。 彼女がいること、隠したいとか? だけど、この会話の流れでは今更聞いていないなどと言えるはずもなかった。 「全部、聞こえた」 藤嘉が視線を上げる前に俺は続ける。 なるべく明るく。 「ふ、藤嘉って彼女いたんだな!?全っ然知らなかった!え?前の学校の人?」 彼女がいるって知ったら、普通はこんな反応だよな? そう思いながら口を動かす俺の語尾を、藤嘉はこんな言葉で遮った。 「藤嘉ほどのイケメンならさぞかし可愛い彼女がいるんだろうー…「彼氏だよ」」
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