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男が好きだと、誰にも言わなかった。
男が好きだと、誰にも言えなかった。
でも
男が好きだと、誰かに言いたい気持ちも少なからずあった。
それは例えば、クラスの女子の中で1番タイプのは誰々だとか、バレー部のマネージャーが可愛いとか、奏が俺を相手に気軽に話をするみたいに。
あの先輩が格好いいとか、こんな男がタイプだとか、そんなことを気軽に言ってみたいと思ったことがなかったわけじゃない。
でもそんなこと、怖くて口に出来なかった。
口に出来る相手もいなかった。
自分と同じ種類の人間に会ったこともなかった。
自分の恋愛対象が男だということは、隠すべきことだと思ったし
隠さなければならないと思った。
その生活は窮屈だった。
自分を隠して他人に合わせる生活がこの先いつまで続くのかと思えば、今より幼かった俺には永遠にも感じられた。
だから、早くこの街を出たかった。
その為に、勉強して勉強して勉強して。
大学受験という大義名分でこの街を離れたかった。
18歳まで自分を隠して頑張れば良いのかと思えば、今より幼かった俺は、その永遠より短い時間に安堵したのを覚えている。
それまでは、ひっそりと胸の中にしまっておこうと思っていたのに。
なのに藤嘉は、違う。
あっさりと言葉にした。
彼氏がいる、と。
俺もそっち側の人間じゃないか、と。
俺が同じ種類の仲間だと嬉しい、と。
言葉を交わすようになって数日の俺に、隠すことなくそう言った。
藤嘉になら、俺も、言えるのかな。
彼氏がいる藤嘉になら、言ってもいいのかな。
奏が俺に恋愛対象としての女子の話をするみたいに。
藤嘉となら、気軽に恋愛対象としての男の話を出来るの?
もしそうならー…
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