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思考を切って、唇を噛んだ。
息を胸いっぱいに吸う。
心臓がうるさい。
息を吐き出して、言葉にした。
「俺も、嬉しい、よ?」
そう言った声が上擦っていたのが、自分でも分かった。
俺の声が耳に届いた瞬間だろう、藤嘉は反対側に首を傾げた。
綺麗な黒髪がさらりと揺れる。
俺は藤嘉の揺れる毛先を見ながら、果実の様な甘くほろ苦い香りを吸い込み、また言葉にして吐き出す。
「藤嘉の言った通りだよ。俺もそっち側で、仲間で、同じ種類で。だから、同じ人間と初めて会ったから、嬉しい、よ」
初めて口にした想いは、言いながら何だか辿々しく、ぎこちなくなってしまった。
藤嘉は貸し出しカウンターに肘をつくと、傾げた首に頬杖をつく。
「やっぱり、そっか」
ふふっ、と笑って続ける。
「聞いちゃってから、本当は違ったらどうしようかと思って緊張した」
そう言って、悪戯っ子の様にくしゃりと笑った。
藤嘉が見せたその表情に、緊張や葛藤が解けていく。
俺は言った。
「それは俺の台詞だろ。彼氏いるとか突然軽く言われるし、自分の恋愛対象見抜かれるしでめちゃくちゃびっくりしたわ」
「ははっ、ごめん」
藤嘉の笑顔での謝罪を聞きながら、俺はストローを口にして一気に吸い上げた。
必死にカラカラだった喉を潤す俺を余所に、藤嘉は頬杖のままゆっくり優雅にストローに口を付けていた。
冷たいコーヒーが、身体の真ん中から上がった体温を下げていく。
先に飲み終えたのは藤嘉だった。
「共通点多いね、俺ら」
「うん?」
遅れて俺も飲み終え、聞き返す。
藤嘉は頬杖のまま、左手の持っていたイチゴミルクの紙パックを貸し出しカウンターへ置く。
空いた左手の指を折りながら言った。
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