11・恋愛対象

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「同じ苗字。名前には植物の漢字が入ってるし。左利き。イチゴミルクも嫌いじゃない。おまけに、ゲイ」 順に指を折っていった藤嘉の左手が、拳になる。 俺は指折り数える藤嘉の手を見ていた。 骨っぽくて長い、綺麗な指先だと思った。 「な、椋?」 同意を促される様に名前を呼ばれて、俺は口を開く。 「そうやって数えたら確かに多いかもな」 「これだけ多いのはなかなか無くない?」 「でも、共通しない部分も多いって」 「え?何ある?」 んー、と唸り、今度は俺が指を折っていく。 「藤嘉モテる、俺モテない。藤嘉イケメン、俺違う。藤嘉徒歩通、俺チャリ通。藤嘉頭良い、俺違う。あとー…」 「あと?」 「藤嘉には、彼氏がいる。俺にはいない」 そう言って、藤嘉同様に拳を握った。 俺は藤嘉に言った。 「な、共通しない部分も多いだろ?」 「なんか無理矢理じゃね?」 「そんなことないって」 ふっと、表情が和らいだ時だった。 ピロン、と、俺と藤嘉の間に電子音が鳴った。 反応したのは藤嘉だった。 「あ。悪い、俺だ」 「電話?」 「いや、違うけど」 ポケットからスマホを出す藤嘉に、俺は言う。 「図書室ではマナーモード必至だぞ」 「ごめんごめん。いつも忘れちゃうんだよな」 「いつも?」 「授業中とかもよく鳴らしちゃうんだよな」 そう言いながら画面を見た藤嘉は、すぐに目尻を下げる。 口元が微かに綻んだのが分かった。 藤嘉の端整な作りの顔に浮かんだ柔らかい表情に目を奪われそうになる。 藤嘉はその綺麗な指先でスマホの画面を撫でていく。 何かしら返事を打っているのであろう藤嘉に俺は問う。 「何?彼氏から?」 藤嘉はスマホの画面から顔も上げずに返事をくれる。
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