11・恋愛対象

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「うん、まぁ、そうだけど」 自分で聞いておきながら、ちょっと驚く。 本当に彼氏からの連絡かよ。 …じゃあ、この前の着信もそうかな? 藤嘉はスマホの操作を続けながら言った。 「てか、椋。何で?」 「え?」 「何で分かった?」 「藤嘉の顔で」 自分の名前に反応してか、ようやく藤嘉は顔を上げた。 奥二重の黒い瞳が、くるりとこちらを見ている。 操作していたスマホを貸し出しカウンターに伏せて置くと、藤嘉は左の掌で口元を隠して俺に聞き返す。 「え?顔?」 「スマホ見る表情がいつもと違うからさ」 「えぇ?嘘だろ」 「嘘じゃないよ。なんか、いつもより表情が柔らかいって言うか、優しいって言うか?」 俺がそう言うと藤嘉は少し眉を下げるて、ふはっと笑った。 「ちょっ、やめてよ」 掌の向こう、藤嘉の頬がほんのりと色付いていく。 「めちゃくちゃ恥ずかしいじゃん」 困った様に少し下げた眉とは対照的に、朱が差した頬で笑う顔はやっぱりいつもより柔らかい。 藤嘉のその表情は、俺の頭の中でマネージャーのことを話した時の奏の表情とリンクする。 ゲイでも、ゲイじゃなくても、恋をしている人間は同じ様な表情をするのか、と思った。 「なぁ」 「ん?」 俺は訊ねる。 「藤嘉の彼氏って、格好いいの?」 顔をおさえたままで俺の質問を聞いた、藤嘉はすぐに目を丸くした。 口元を隠した掌の後ろから、くぐもった声を上げる。 「はっ!?」 「どんな感じ?」 「そんなこと聞く?」 「聞いたらダメ?」 「いや、ダメってか…ノーコメント」 「え?狡くない?」 「狡くないよ」 藤嘉はそう言って、ふはっと、笑う。 俺もつられて、ふはっと、笑った。
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