11・恋愛対象

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藤嘉が差し出した小指の意味はもちろんすぐに分かった。 約束=指切りなんてなかなか可愛い発想になるんだな、と思う。 同時に ぴっと目の前に立てられた藤嘉の小指と自分の小指を合わせることを躊躇ってしまう。 自分が今まで意識して同性に触れないようにしてきたのもあるし 彼氏がいる藤嘉の綺麗な指先に触れることが、なんとなく悪いことの気がする。 躊躇っている俺に藤嘉は言った。    「椋、早く」 視線が合う。 奥二重の向こうの黒い瞳には、指切り以外の他意なんて全くありません、って書いてある。 「ほら」 もう一度促されれば、断る理由なんか見つからない。 差し出された藤嘉の小指と、自分のそれを恐る恐る繋いだ。 藤嘉の骨っぽい綺麗な指先が、俺の小指に触れる。 藤嘉がきゅっと小指を絡めて、その瞬間やけにドキッとした。 初めて触れた藤嘉の指先はほんの少しの面積なのに、酷く温かかった。 藤嘉が言った。 「指切りげんまん」 俺はなるべく普通に、言い返す。 「嘘ついたらどうすんの、藤嘉?」 藤嘉は口元に悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。 「針千本はキツいな」 ははっ、と声を出して藤嘉が笑って、続ける。 「じゃあ、椋のお願い1個聞いてやるよ」 「何でも?」 「ある程度は」 藤嘉は茶化すでもなく真面目に答える。 俺は言った。 「その条件なら俺に有利じゃない」 「あ、じゃあ、約束破ったら椋もお願い1個聞いてよ」 「俺の約束って?」 「椋は好きな男か彼氏が出来たらすぐ教える、そしたら俺は椋の質問に何でも答える」 男同士で『好きな男』だの『彼氏』だの、そんな会話をサラッと出来ることが何だか擽ったい。 「分かった、約束な」 「うん」 藤嘉と繋がった小指で、指切りをした。 子どもみたいな約束と藤嘉の指先の温かさだけ、俺の中に残った。
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