12・図書室での過ごし方

2/8

29人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
「お疲れー」 そんな声と同時に、図書室の扉が開いた。 参考書から顔を上げると、最早見慣れた藤嘉の姿。 「お疲れさん。今日は遅かったな、藤嘉」 「今週掃除当番。その上、今日はゴミ捨てじゃんけんに負けた」 「前も負けてなかった?藤嘉ってじゃんけん弱いの?」 「うるさいな」 藤嘉は笑いながら、貸し出しカウンターのいつもの場所に座る。 「お勉強?」 「うん」 藤嘉は俺の参考書を覗く。 「あ、椋。そこ、答え違う」 「えぇ?どこよ?」 「これ」 藤嘉の長く綺麗な指先が俺の参考書を指差す。 「貸して。これはこの公式を使ってー…」 藤嘉は遠慮もなしに俺のペンケースからシャープペンを取ると、俺のノートに書き出す。 藤嘉の指先がサラサラと数学の証明問題が解いていく。 相変わらずの、綺麗な文字だ。 「で、証明終了」 問題を解き終えた藤嘉はシャープペンをカウンターに置いた。 俺は藤嘉の解いた問題に目を通す。 「使う公式が違ったのか」 「よくある引っかけ問題だね。椋って数学苦手だよな」 「藤嘉は得意だよな」 「まぁね」 藤嘉はえくぼを浮かべて得意気に笑顔を見せる。 「いいなぁ、次のテスト楽勝じゃん」 「そうでもないよ。一応今日から俺もテスト勉強期間」 そう言って、藤嘉は鞄からノートや参考書を取り出した。 「は?藤嘉勉強すんの?」 「え?テスト勉強くらいするでしょ」 「藤嘉が勉強するとこ、初めて見るけど」 「うるさいなぁ。俺だって学生なんだから勉強くらいするよ」 藤嘉はそう言って笑みを深めて、参考書を捲る。 藤嘉と図書室で過ごす毎日が、俺の中で当たり前になってきた今日この頃。 季節は春から夏へと移った。 誰にも何も言わないまま、俺達は毎日放課後の図書室で2人だけの時間を過ごしている。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加