12・図書室での過ごし方

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2人で向かい合って、参考書の問題を解く。 シャープペンが紙の上を走る音と、微かな呼吸音。 互いに無言でも何も気にならないくらい、藤嘉と俺との距離は随分と近くなった。 問題を解く傍ら、俺は藤嘉の背後にある壁掛け時計をちらりと見る。 もう少しで4時。そろそろだろうな。 そう思った瞬間、俺と藤嘉の間にピロンと着信音が鳴った。 最早聞き慣れた、藤嘉のスマホにメッセージが届いたことを知らせる着信音。 「藤嘉。スマホ鳴ったよ」 「うん」 藤嘉はシャープペンを置き、ズボンのポケットからスマホを取り出しながら言う。 「今日さ、現代文の時間にも鳴らしちゃって。高瀬先生に怒られた」 「音切っておけって」 「忘れちゃうんだもん」 藤嘉は笑い、画面に目を落とす。 分かっていながら、俺は敢えて訊ねる。 「音弥?」 「うん」 俺からの問いに、藤嘉は顔も上げてはくれない。 綺麗な指先でスマホの画面を撫でていく。 遠く離れている音弥と繋がる為に。 「音弥、なんて?」 「うん?普通に定期連絡だよ」 藤嘉はそう言って、スマホを貸し出しカウンターに伏せた。 俺達はまた参考書に目を落とす。 今日から藤嘉も勉強を始めたけれど、いつもは俺が勉強して、藤嘉は図書室にある本を読んだり、俺の間違いを指摘したり、雑談したり。 そうしている間に4時前後になると音弥から連絡が来て藤嘉のスマホが鳴る。 藤嘉が何かしら音弥に返信をして、また勉強や読書や雑談に戻る。 これが俺達の図書室での過ごし方になっている。
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