12・図書室での過ごし方

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えくぼを浮かべた柔らかな笑顔で藤嘉は続ける。 「やっぱ河川敷まで行かないとよく見えないの?」 「いや、河川敷より高い場所なら見えると思うよ。そうだな、うちの学校からでも見えるんじゃないか?」 「あぁ、うちの学校坂の上だしな」 「案外穴場かもね」 そんな会話をしながら、俺は別のことを考えていた。 藤嘉は、その花火大会に誰と行くのだろう。 この話の流れならば、十中八九相手は音弥だろう。 音弥だろう。けれど、もし違ったら? まだ行く相手がいないのだとしたら? だとしたら、それは俺でもいいのか? いや、きっと音弥と…でも、万が一…… 俺は手にしていたシャープペンを強く握った。 花火大会の話題を振ってきたのは藤嘉だし、聞くだけ聞いても特に変ではないはずだ。 俺は小さく息を吸ってから、その考えを口に出した。 「花火大会には、音弥と、行くのか?」 敢えてその名前を出して訊ねた。 きっと自分の保身だろう。 「一緒に行く?」なんて聞き方をして断られたら気まずい。 俺の問いに、藤嘉は一瞬だけ眉を持ち上げた。 はぐらかされるかな、と思ったのと同時に藤嘉は口を開く。 「うん」 想像通りの答えなのに、心臓はざわめいた。 シャープペンを改めて強く握り、俺は言う。 「マジか、デートじゃん?」 ははっ、と軽く笑えた。ふふっ、と藤嘉は笑う。 「久しぶりにね」 「久しぶりなの?」 「引っ越して来てから会ってないから」 「マジかよ」 マジで、と藤嘉は呟く。 藤嘉が音弥とのことを正直に答えてくれるのは、珍しかった。 珍しい。 久しぶりのデートに、浮かれているのだろうか。 藤嘉は続ける。 「来てくれるらしい。こっちに」 えくぼを浮かべて、長めの前髪を揺らして、藤嘉が深く笑った。
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