12・図書室での過ごし方

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言えない。誘えない。 藤嘉にはもう花火大会に一緒に行く相手がいる。 音弥という、相手。音弥という、彼氏。 俺は藤嘉の瞳から視線を反らす。 またノートの下手くそな字へと目を落とした。 そして答える。 「そんな相手いないよ」 「えー?マジ?」 「マジ」 「えー?」 藤嘉は不服そうに声を上げる。 初めて聞いた不服そうな声に、俺は取り繕う様に付け足す。 「藤嘉とは指切りしちゃったから。何かあればちゃんと言うって」 「怪しいんだよなぁ」 藤嘉はまだ不服そうな声だ。 俺は人差し指でノートの文字をなぞりながら、精一杯冗談めかした返事をする。 「何が怪しいんだよ?」 「椋って秘密主義っぽいし」 「はあ?藤嘉ほどじゃないだろ?」 「え?俺?」 意外そうな声を上げた藤嘉に俺は続ける。 「転校してきて4ヶ月も経つのに、未だにお前の色んな噂聞くぞ。しかも全部ガセ」 「どんなガセネタ?」 「勉強しないのに頭良いのはIQ180あるからとか、優しいけど実はドSとか、めっちゃ美人の彼女いるとか」 俺は最近耳にした藤嘉の噂を並べて挙げた。 藤嘉は軽やかに笑う。 「ははっ。それ周りが好き勝手に言ってるだけじゃん」 「だろうけど。噂が絶えない分、藤嘉の方が秘密主義って感じがする。本当の姿を見せない的な」 「ははっ」 短く軽やかに笑ってから、藤嘉の言葉は続いた。 「本当の俺のことは、椋だけが知っててくれてるから。それで充分だもん」 ノートをなぞる指が無意識に止まった。 「…そっか」 そう答えるのが精一杯だった。 だって、俺よりも藤嘉を知っている奴がいることを、俺はもう知っているから。 なのに、藤嘉の言葉を嬉しく感じる俺がいる。 俺だけ特別なのだと錯覚しそうになる。 俺は静かに、ノートの上の指先を握り締めた。
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