2・1組の鈴木だよね?

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いつもの、貸し出しカウンターの前に座った。 貸し出しカウンターを陣取って、勉強したりスマホ見たり、自分の時間を満喫するのが俺の日課だ。 高瀬からは書庫の整理を頼まれているけれど、そんなの急ぎの用事ではないから今日はパス。 椅子の背もたれに身体をあずけて伸びをした。 瞬間だった。 図書室の扉が、開けられたのは。 えっ? 驚き、勢いよくそちらを見る。 図書室の扉の前。 そこには、扉を開けた人物が立っていた。 俺達のそれとは少し色が違う。藍色の学ラン。 少し長めの黒髪を揺らして、図書室へ一歩足を踏み入れてくる。 隣のクラスの転校生…いや、鈴木 藤嘉が立っていた。 キョロキョロと図書室の中を見回してから、カウンターの俺を見た。 後ろ手に図書室のドアを閉め、こちらへと歩み寄る。 何だろう、果実の様な甘くほんの少しほろ苦い香りが舞う。 黒い前髪の奥、奥二重の涼しげな瞳が俺を捉えた。 目が合った瞬間、無意識に唇が動いていた。 「鈴木 藤嘉?」 俺の言葉に、鈴木 藤嘉は長めの前髪の向こうで眉を持ち上げて目を丸くした。 「あ、俺のこと知ってるんだ」 鈴木 藤嘉の薄い唇が動いて、いつも傍から聞いていたよりも低い声でそう言った。 歩み寄ってきた鈴木 藤嘉とカウンターを挟んで向かい合う。 鈴木 藤嘉からの言葉は続く。 「1組の鈴木だよね?」 「1組の鈴木だけど、」 状況が飲み込めない俺は、同じ言葉を返す。 鈴木 藤嘉は肩に提げた鞄から、おもむろにノートを取り出した。 よく見たことのあるノート。 よく見たことのある汚い字で『2-1 鈴木 椋杜』と記名してある。 それは俺の現代文のノートだった。 俺は言った。 「え?俺のノート?何で?」 「高瀬先生が俺と鈴木のノートを間違えて返却したらしい」 「は?」
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