29人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
「椋杜、ヤバい…俺、全教科赤点かも」
終業チャイムと同時に半泣きで駆け寄ってきたのは奏だった。
「ドンマイ、補習頑張れ」
「いや、慰めてよ、椋杜ぉ」
「慰めたってもう期末は終わったんだから、次を見るしかないだろ」
「そうだけどさぁー…」
奏が大袈裟に項垂れる。
テストが終わる度に『赤点だ』と騒ぐ奏だけれど、いつもギリギリでそれを回避しているから、恐らく今回も大丈夫だろう。
そんな訳で、あっという間に期末テストが終わった。
帰り支度を始める俺に奏は言う。
「椋杜は良いよなぁ」
「何が?」
「頭良いから!毎回学年7番以内に入るじゃん!」
憤慨する奏に、ペンケースにシャープペンをしまいながら反論する。
「馬鹿野郎。それに見合った勉強時間とってんだよ、ちゃんと」
「俺だってなぁ、勉強しようと思ってるさ!でも何が分かんないかが分かんないんだよ!」
「じゃあ、授業中寝るな」
「朝練大変なんだよ!」
「知るかよ」
そう言ったら奏はしゅんと黙った。
急にしょげられると、ちょっと可哀想になる。
俺は言った。
「赤点取ったら勉強教えてやるからクヨクヨすんな」
「ありがと」
鞄のチャックを閉めながら俺は呟く。
「まぁ、俺も今回は7番以内は無理かもしれないし」
「え?」
奏が顔を上げる。
「テスト、出来なかったの?」
「うーん…自信ない」
「珍しいな、どうしたの?」
奏に問われて、言葉に詰まる。
どうしたの?って?
テストが近付く、イコール、藤嘉と音弥が会う日が近付く、と言う事実が俺の勉強に対する集中力を掻き乱したからだ。
なんて、言えるか。
奏を見遣れば俺からの答えを待ってこちらを見ている。
「さぁ?どうしたんだろうな」
奏は、何か言いそうだった。
けれど、その言葉を待たずに俺は鞄を肩に掛けて立ち上がった。
最初のコメントを投稿しよう!