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「じゃあまたな、奏」
「帰るの?」
「いや、部活。図書室寄る」
そう言って、一歩歩き出す俺に奏は言った。
「あ、椋杜。今日花火大会行く予定ある?」
「ぇ?」
花火大会というワードに反応して、振り返ってしまった。
奏が続ける。
「去年も誘ったけど、椋杜来なかったじゃん?今年はどう?一緒に行く?」
去年の花火大会、奏に誘われたけれど俺は億劫で断った。
奏やその他の同級生達と行くことが嫌だったわけじゃない。
あちこちに男女のカップルがいて必然的にそういう話ー…彼女欲しいとか、あの子可愛いから声掛けてみろよとか、アイツとあの子って付き合ってたんだとか…ーそういう所にわざわざ出向くことが嫌だった。
話を合わせるのも疲れるし、ボロが出ることも避けたかった。
同じ理由で、今年も億劫であることに変わりはないけどー…
俺は問う。
「河川敷まで行くの?」
「まだ決めてない。メンバーもまだ決まってないし」
河川敷まで行けば、藤嘉と音弥が一緒にいるところを見られる、かも。そんな考えが頭に過る。
「椋杜、来る?」
奏はもう1度俺にそう訊ねた。
俺は少し考え、答える。
「いや、今年も行かない」
「えー!?」
「来年また誘って」
「来年なんて受験生だから余計行かんだろ」
「ははっ。じゃあ、花火大会楽しんで来いよ」
膨れ面を見せた奏に手を振って、俺は教室を後にした。
廊下を、図書室に向かって歩く。
もしも、奏と花火大会に行ったとして
もしも、藤嘉と音弥が一緒にいる所を見たとして
俺はどうするって言うんだろう。
俺にはどうも出来ない。
音弥と一緒にいる藤嘉に声を掛けることも出来ないし
藤嘉と音弥の関係を奏に上手く誤魔化すことも出来ないだろう。
それなら、大人しく引きこもっていた方がいいはずだ。
今までみたいに。
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