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歩き出した廊下は、期末テスト明けの晴れ晴れとした雰囲気に満ちていた。
あちこちから、花火大会というワードが漏れ聞こえてくる。
期末テスト明けの花火大会なんて、健全な高校生にとっては羽を伸ばしてくれと言われているようなものだろう。
藤嘉も今頃、浮かれているのだろうか。
そんなことを思いながら真っ直ぐ図書室に向かい、鍵を開けている所で尻ポケットに捻じ込んであるスマホが震えた。
放課後の連絡は、たいてい母親だ。牛乳買ってこいとかそんな連絡。
図書室を解錠して中に入り、スマホを確認する。
画面に映し出された名前は母親のものではなかった。
画面には『鈴木 藤嘉』の文字。
藤嘉からのメッセージを知らせる通知に、心臓はドキリとした。
そこをタップし、開く。
『テストお疲れ』
短いメッセージに歩きながら返事をする。
『お疲れ。やっと終わったな』
藤嘉からの返事はすぐだった。
『今日図書室寄る?』
貸し出しカウンターに鞄を置きながら返事をする。
『今着いた』
返事はすぐだ。
『俺、今日行けない、ごめん』
スマホを操作していた親指が、無意識に止まった。
あぁ、音弥とデートだから、か。
別に図書室に来ることを互いに約束している訳ではない。
だから、来ないことを謝る必要なんてないし
来ないことをわざわざ連絡してくる必要もない訳だ。
ない訳だけれど、藤嘉は連絡してきたし謝ってきた。
図書室に来ないことを、俺に会えないことを、少しは気にしてくれていると思って良いのだろうか。
いや、違う。
俺よりも音弥を優先した結果が、これなだけだ。
『了解』
と返事をすると同時にスマホが震えた。
藤嘉からのメッセージかと画面を見る。
『帰りに牛乳買って来て』と、母親からのメッセージがそこには表示されていた。
藤嘉からの返事は、それ以上はもう無かった。
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