14・何の話?

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「椋ちゃん。今日って何の日か知ってる?」 牛乳を買って帰宅早々、浴衣姿の妹に絡まれている。 これはきっと何を答えても絡まれるやつなので、正解を言ってしまおう。 「花火大会だろ」 「そうだよ、何で普通に帰ってきてるの?」 「は?ここが俺の家だからだよ」 「花火大会行かないの?デートしないの?」 「行かねぇよ、面倒くせぇ」 「椋ちゃん、男子高校生がそんなんでいいの?今年の夏は2度と来ないんだよ?」 「はいはい、分かったよ」 最近の小学生女子は面倒くさいもんだ。 まだ何か言いたげな妹の横を通り過ぎる。 すれ違いざまに俺は言った。 「浴衣、似合ってるよ。変な男に引っ掛からんように行ってこいよ」 妹は照れたように微笑み、もう何も言わなかった。 俺はそのまま、自室へと引っ込んだ。 制服から部屋着に着替えて、ベッドへ倒れ込む。 勉強をする気にも、脱ぎ捨てた制服を畳む気にもならなかった。 自分の部屋は、藤嘉の来ない図書室と同じくらい静かだった。 今までの俺は、そんな図書室が良くて好きだった。 なのに、今日の図書室は静かすぎて全然落ち着かなかった。 テストの自己採点でもしようかと答案を引っ張り出してきても、頭には入らなくて。 母親に頼まれた牛乳を買って、さっさと帰ってきてしまった。 何なんだろう、俺……… コンコンー そんなノックの音にはっとした。 扉の向こうから、陽気な声が掛かる。 「椋杜ぉ?お邪魔してまーす」 ベッドから身体を起こした。 部屋の中はさっきより幾分薄暗い。 寝てた…? 「あれ?椋杜いないの?」 扉の向こうから聞こえる声は、兄のものではない。 俺はベッドから下りて扉を開けると、そこにいる人物へ声を掛けた。 「何してんの、皐月くん」 そこには、数時間前に学校で見た『高瀬先生』の服装のままの皐月くんが立っていた。
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