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「………はい?」
呟くように聞き返すと、皐月くんがハッキリと言った。
「だーかーら! 2組の鈴木!鈴木 藤嘉との待ち合わせ寝過ごしてすっぽかしてんだろ?」
「………は?」
短い声が漏れたのは、無意識だった。
俺の余り良くない反応を見て、皐月くんは眉間の皺を深めながら続けていく。
「俺が退勤する時、校門前で鈴木にバッタリ会ったから声掛けたら『待ち合わせ』『でも時間過ぎてるから、寝過ごされたのかな』って言っててさ。『鈴木が学校からも花火見えるって言ってたからここで待ち合わせにしたんだけど残念』って言ってたから、相手は椋杜かと思ったんだけど…違うのか?」
確かに学校で花火が見えるだろうと言ったのは俺だ。
けれど、『待ち合わせの時間が過ぎてる』って?
待ち合わせの相手はー…
「…皐月くん、それ何時頃の話?」
皐月くんは腕時計を確認する。
「さっきだよ。10分くらい前かな?」
「…鈴木は、1人だったの?」
「うん」
「分かった、ありがとう」
そう言って、皐月くんの横を擦り抜けた。
「え?ちょっ、椋杜!?やっぱお前なの!?」
後ろから皐月くんのそんな声が追ってきたけれど、振り返らなかった。
乱暴に階段を降り、自転車の鍵だけ掴んで玄関を出る。
皐月くんの話が正しいのならばー…
藤嘉は1人で学校で待っていて、音弥はまだ藤嘉の元に現れていないことになる。
どうして?
音弥と花火大会デートだろ?
だから、今日は図書室にも来なかったんだろう?
音弥が来るのがちょっと遅れていただけ?
でももし、まだ一人ぼっちだったらー…
母親に行き先を告げなかったことも、
部屋の電気を点けっぱなしにして来たことも、
スマホも財布も部屋に置いてきたことも、
皐月くんに何も言わなかったことも、
全部気にならなかった。
俺は学校まで、1度も止まること無く全力で自転車を走らせた。
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