2・1組の鈴木だよね?

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「現文の課題でノート提出あったでしょう?」 「ぁ?あ!あー…」 記憶を辿る。 確か数日前に現代文の課題でノートを提出して、昨日手元に返ってきているはずだ。 日直が配ったノートが自分の物だと信じて疑わなかった俺は、よく見もせずに持ち帰ったのを思い出した。 「あったな。昨日の授業でノート返ってきたわ」 「俺は今日の授業で返ってきたんだけど。ノートが違うことに気付いて高瀬先生の所に行ったら、忙しいから鈴木に直接返してもらってって言われて」 「忙しいってか、面倒だったんじゃね?」 「多分ね」 「職務怠慢だな」 ははっ、と鈴木 藤嘉が笑う。 「で。高瀬先生が、鈴木なら毎日図書室にいるって言うから。来てみたら、本当にいた」 鈴木 藤嘉は笑みを深めた。 片方の頬に浮かんだえくぼが、今までの印象よりも幼く見せる。 俺は言った。 「そっか。わざわざありがとな」 それから、自分の鞄に手を伸ばし手繰り寄せた。 チャックに手をかけた所で、思い出す。 「あ」 視線を鈴木 藤嘉に向けた。 カウンターに座る俺を微かに見下ろす様に、長い睫毛を軽く伏せて鈴木 藤嘉は俺を見る。 上目遣いに見つめ返し、言った。 「ごめん、今日現代文なかったからノート持ってない」 「あぁ、そっかぁ」 「明日持ってくるよ。2組まで届けに行けばいいか?」 俺がそう言うと、鈴木 藤嘉は考える様に首を傾げた。 けれどそれは一瞬で、すぐに答える。 「いや、いい」 「え?」 「俺が明日またここに来るよ」 「や、悪いから2組まで行くよ」 「いいよ。毎日図書室にいるんだろ?」 「…まぁ、いるけど」 「じゃあ、明日の放課後また来る」 鈴木 藤嘉はそう言うと、踵を返して歩き出す。 「あ」 扉の前で首を捻ってこちらへ振り向くと、言った。 「鈴木のノート、明日まで預かっておくな」 「ぇ?あ、「じゃあ、また明日」」 そう言って、鈴木 藤嘉は図書室から静かに出て行った。 扉が外から閉められる。 図書室に残ったのは、呆気にとられた俺だけだった。
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