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『椋』
藤嘉の声がする。
俺の腕の中で。
俺の耳元で。
『椋、ねぇ』
藤嘉の息遣いが伝わってくる。
抱き寄せた掌から。
抱き締めた全身から。
今この瞬間、お互いにこの世界で1番近くにいる。
音弥よりも誰よりも、俺が藤嘉の1番近くにいるのにー…
俺たちの心は、きっと掛け離れた所にいる。
藤嘉が俺の背中に手を回さないことが証拠だろう。
『ごめんな』
それは、何の謝罪?
『ありがと、椋』
それは、何の感謝?
俺は謝罪も感謝もいらない。
謝罪も感謝もいらないから
俺より弱い力でいいから
俺の背中に、その腕を回してくれないだろうか?
ねぇ、藤嘉。
そんなことを思う俺は、きっとー…
藤嘉のことが好きなんだと、想う。
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