16・あの花火大会の夜から2日経った

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微睡んでいた思考が、目の前に引き戻される。 耳に届いたのは終業のチャイムと、クラスメイト達のざわめき。 机に伏せた頭の上から声がかかったのは、そのチャイムが鳴り終えてからすぐだった。 「椋杜。椋杜、起きろー」 「…起きてるよ」 奏の声に机から身体を起こす。 見れば奏はもう帰る準備万端で鞄を肩に掛けていた。 俺を見て、奏は言う。 「どしたの?具合でも悪い?」 「ん、いや、別に」 「じゃあ、機嫌悪い?」 「いや、」 「の、割には元気なくない?一昨日からずっとじゃん」 「うーん…」 俺は奏から視線を伏せた。 俺の視界の端で奏はまた浅く溜め息をついた。 「具合も機嫌も悪くないなら良いけど。心配するから調子悪いなら言えよ?」 眉を下げる奏に俺は素直に言った。 「心配してくれてありがとう、奏」 「素直でよろしい」 奏が笑って、俺もなるべく笑顔を作って見せた。 「あ、そう言えばテストの順位張り出されてたよ」 「え?もう?」 「学年5位おめでとう、椋杜」 「あ、5位だったんだ、俺」 「自分の順位も知らないのか、お前は」 自分の順位どころじゃないんよな、と思いながら俺は言った。 「奏は何位だった?まさかの1位か?」 なるべく明るく冗談めかしてそう問うと、奏は笑う。 「んな訳あるか。1位は転校生だよ」 「え?」 転校生というワードに、すぐに藤嘉の顔が脳裏に浮かぶ。 「…マジか」 「顔も良くて頭も良いとか、あの転校生何なのマジで」 脳裏に浮かぶのは、藤嘉と過ごしたテスト前の図書室。 『一応今日から俺もテスト勉強期間』なんて言って、真面目に勉強していた姿。 あの日から今日まで1週間位しか経っていないはずなのに、何だか酷く昔のことのように感じる。 「奏ー、部活行くー?」 不意に教室の向こうから奏に声が掛かった。 「今行く!じゃあな、椋杜」 「うん。部活頑張って」 奏に手を振って、教室から出て行くその背中を見送った。
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