17・聞けない

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学校の外へ出る。 いつもの習慣で自然と駐輪場へ向かっていた俺は、黙って隣を歩く藤嘉に言った。 「俺、チャリなんだけど」 「うん、知ってる」 「藤嘉は?」 「徒歩」 こんな会話、前にもしたな。あの時は登校する時でー…そう思った時、藤嘉は続けた。 「だから、乗せてよ?」 軽く隣を見ると、藤嘉の瞳と視線 交わる。 藤嘉はもう1度言った。 「椋のチャリに乗せて?」 こんな会話も、したんだったな。 俺は答える。あの日と同じ言葉で。 「二人乗りは違反だろ?」 「ははっ、相変わらず真面目か」 同じ時の同じ会話を思い出しているのだろう、藤嘉はそう言って笑う。 同じ時の同じ言葉を同じ瞬間に想い出していることが嬉しくて、俺も笑った。 そんな会話をしながら、自分の自転車の前について解錠する。 ハンドルに手をかけた時に、後ろから藤嘉は言った。 「で、ダメ?」 振り返って藤嘉を見た。 肩からずり落ちた鞄の紐を直しながら、立っていた。 目が合うと、奥二重の瞳を細めて微笑む。 「いいよ」 「やった」 「でも警察に捕まったら藤嘉のせいだからな」 「ははっ、その時は2人で逃げよ」 藤嘉は軽やかにそう笑った。 「2人で?俺と逃げてくれんの?」 そう聞き返した。 俺の言葉に藤嘉はきょとんと目を丸くして、言った。 「え?当たり前だろ。2人一緒だ」 何気ない会話であっても『俺と一緒』の選択肢が藤嘉の中にあることが、嬉しかった。 そんな俺を余所に藤嘉は続ける。 「後ろに立った方がいいか?」 「いや。俺が立って漕ぐから、藤嘉はサドルに座っていいよ」 「了解」 藤嘉がサドルに跨がり、ハンドルを握る俺の肩へとその手を置いた。 ワイシャツ越しに触れる藤嘉の指先に、一瞬身体には力が入った。 藤嘉にそれを悟られない様に、俺は言う。 「っ、漕ぐぞ」 「うん」 背中に藤嘉を感じながら、ペダルを踏み込んだ。
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