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藤嘉のことが好きだ。
あの花火大会の夜の藤嘉が可哀想で、それ以上に愛しく想った。
抱き寄せた藤嘉が、俺のことも抱き締め返してくれないかと期待した。
それもこれも全部ー…俺が藤嘉のことが好きだからだ。
だからこそ、音弥の話なんか聞きたくなかった。
音弥の話を聞くくらいなら、言ってしまおうと思った。
むしろ、言ってしまいたかった。
藤嘉のことが好きだ、と。
だけど
藤嘉は言わせてもくれなかった。
あの花火大会の後にも、藤嘉と音弥は連絡を取り合っていて。
それはつまり、2人はまだ恋人同士なわけで。
音弥は、ドタキャンしたことを凄く反省してて。
それはつまり、藤嘉への想いがあるからで。
藤嘉は、きっと絶対そんな音弥を許していて。
それはつまり、音弥への想いがあるからで。
藤嘉は、俺に抱き締められた意味が分からないほど鈍感じゃなくて。
それはつまり、藤嘉は俺の想いに気付いているわけだろう。
だからこそ、藤嘉はー…
俺には、俺の気持ちを言わせてもくれない。
花火大会の夜、でまかせに皐月くんに俺の名前を言ったくせに。
悲しさを隠して、よく出来た作り笑顔で笑ったくせに。
『椋みたいにすぐ来てくれるわけじゃない』と言って、俺と音弥を比べたくせに。
俺の肩にその頭をもたげたくせに。
大人しく俺に抱き締められたくせに。
肝心な部分は、言わせてもくれないのかよ。
…そんなの、狡くね?
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